リリイ・シュシュのすべて』という観ているだけで賢者タイムに突入しそうな重い映画がまぁ本当に素晴らしかった。

最初は何が何なのか情報の整理が追いつかず少しばかり戸惑ったが、観ていくにつれてどんどん引き込まれた。

いじめや援交、レイプ、自殺、家庭環境など、大人になるにつれて他人事として軽く流されるような問題をあえて直視する内容となっているためか、どこか生と死を身近で間近に感じてしまっていた中学時代へタイムスリップした気分になり再び逃げ場を失ってしまう感覚に陥った。

最初観ながら、現実世界と仮想世界(この作品の場合、音楽「リリイ・シュシュ」)のギャップにもがき苦しむ作品なのかなと予想していたが、それも踏まえてこの作品で伝えたかったことは、終盤の津田(蒼井優)が凧揚げするシーンにあったのではないかと勝手ながら自分なりに結論づけた。

イギリスの政治家ウィンストン・チャーチルが残した数多くの名言の中に

"Kites rise highest against the wind, not with it."

(凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない。)

という言葉がある。

まさにこの作品の内容や趣旨がこの言葉に集約されるのではないか。

変わりたいのに変われない葛藤、大人や将来に何も期待できなくなってしまう失望、どうでもよくなってしまう自暴自棄、そういったどちらかといえばネガティブな感情を抱きやすい中学時代を作品の中で浮き彫りにし、そんな周囲(風)に流されがちだった生活から脱却し、周囲だけでなく自分とも向き合う勇気こそが、より高く上がるためのコツなんだよと言い聞かされているように解釈した。

この作品を通じて、自分自身が中学時代に観ても何も感じなかった、というより感じ取れなかった部分を大人になって改めて見つめ直すことでそんな時期もあったなぁと振り返ることができた。